感じる存在感
松山ケンイチ/チョンジフン(Rain(ピ))2人の若き才能ある俳優/歌手を応援しています
2015.7.18記述
NEWS ポストセブンより

映像における特殊効果の技術革新は、ドラマの常識をも変えるかもしれない。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。


一斉にスタートした夏ドラマの中で、ひときわ異彩を放つ作品がある。『ど根性ガエル』(日本テレビ系土曜午後9時)。

 有名な原作から16年後の後日談、という設定のオリジナルストーリー。主人公・ひろし(松山ケンイチ)は30歳になっても母親に依存し、ブラブラしている情けない男。放送が始まる前、人気漫画・アニメの「実写化」に不満・批判の声もあったとか。

 しかし、第1回目が放送されると否定的な声はぶっ飛んだ。これまで目にしたことの無い斬新なチャレンジ。このドラマの際立った個性を、次の3つの点から考えてみたい。

●説明セリフを排する姿勢

 いくら有名な漫画でありアニメが下敷きだとしても、物語の設定そのものは荒唐無稽でシュール。平面ガエルのピョン吉が人間と会話したり、人生相談にのったり。ピョン吉に引っ張られてTシャツは空を飛び、水に潜る。そうした奇抜な設定が、「実写版ドラマ」として馴染むのかどうか。物語として成り立つのかどうか、が関心の的だった。

 一言でいえば、成功している。「あり得ない」を、くだくだと説明するセリフを排して、映像と演技で語りかけてくる。VFX(特殊視覚効果)を駆使し、Tシャツのピョン吉をしゃべらせる。しかし、特殊効果の技術に依存しすぎず、声を担当する満島ひかりのセリフとVFXとが、うまくバランスしている。満島の巧さが光る。

 松ケンをはじめ他の登場人物たちも、躊躇なく全力でシュールな世界を演じきっている。おかげで視聴者はつまずくことなく物語の内側へ、すっと自然に入っていける。それもこれも、高度な演出の技があってこそ。ドラマ設定の不自然さを視聴者がいちいち気にし始めたら、ストーリーに没入できなくなる。その危険性を上手に超えた。

●役者の配置、絶妙なバランス

 
ヒロイン・京子ちゃんを演じている前田敦子が、実にいい。「一人だけ演技下手」などとネットでは酷評されているが、私はまったくそう思わない。

 このドラマの京子は、ひろしの「しょうもない熱さ」に対置する駒だ。だから、感情を入れずクールに、棒きれのようにぶっきらぼうにしていなければ。前田敦子は、そうした自分の役の意味を、よく理解している。素っ気なく不機嫌を貫く演技はなかなかのもの。後半に突如爆発する感情的セリフが、その分、ド迫力を持った。

 京子の祖母役・白石加代子の登場にも、思わず唸らされた。白石といえば、早稲田小劇場出身の大ベテラン、アングラ女優の筆頭株。しかし彼女の持つ「毒」「狂気」の気配ゆえか、これまでテレビドラマに登場する機会は多くはなかった。しかし今回、白石は主要人物の一人として登場。かつて早稲田小劇場の舞台で私が出会ったあの異様な存在感を、今もなお放っている。

 制作陣はきっと、吉田鋼太郎や田中泯といった最近の中高年個性派舞台人ブームを横目でにらみつつ、「白石加代子をいつ投入するか」と頃合いを見計らっていたに違いない。

 さらに、五利良イモ太郎役の新井浩文、母役の薬師丸ひろ子、梅さん役の光石研、五郎役・勝地涼、よし子先生役の白羽ゆり……見れば見るほど、あっぱれなキャスティング。輝く個性を、きれいな星座のように見事に配置している。

●根底には一本の「哲学」

 一見すると、ギャグドラマ。しかし根底には一本の「思想」が貫いている。

?「いつまでも変わらないものなんて無い」
「昔はよかったなんて話はやめろ、今を生きろ」
「次の瞬間、もう失われてしまうのかもしれないのだから」

 そんなメッセージが随所に隠されている。昭和レトロ風の舞台作りは、日本が青春だった時代、成長と発展を素朴に信じられた時代を現している。しかし、すでにその時代を私たちは失ってしまい、決して過去の栄光に戻ることはできない。

 このドラマは「喪失」と「今」を描いている物語でもある。Tシャツから剥がれそうになっているピョン吉の耳は、「老い」と「別れ」を暗示している。だからこそ、「今」の意味を考えよ、というメーセッジが効いてくる。 

 コミカルな軽さ、VFXと役者の力を拮抗させた映像的チャレンジ。そして、骨太なメッセージ。それらをひとつにまとめ上げていく演出家の腕力に脱帽。松ケンの「ど根性」がいささか冗漫で暑すぎるけれど、今後の展開に大いに期待したい挑戦的ドラマだ。


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